大判例

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東京高等裁判所 昭和59年(ネ)1336号 判決 1986年12月17日

控訴人

日本鋼管株式会社

右代表者代表取締役

山城彬成

右訴訟代理人弁護士

高井伸夫

高島良一

安西愈

加茂善仁

控訴人補助参加人

日本鋼管重工労働組合

右代表者中央執行委員長

景山一男

右訴訟代理人弁護士

大室征男

被控訴人

持橋多聞

被控訴人

日和田典之

右両名訴訟代理人弁護士

野村和造

鵜飼良昭

柿内義明

千葉景子

福田護

主文

本件控訴を棄却する。

当審において生じた訴訟費用中、参加に関する部分は控訴人補助参加人の、その余は控訴人の各負担とする。

事実

第一当事者の申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らの請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二当事者の主張

次のとおり訂正・附加するほかは、原判決事実摘示のうち被控訴人らの請求に関する部分と同一であるから、これをここに引用する。

一1原判決七枚目表末行に「並びに」とあるのを「ならびに」と、同八枚目裏一〇行目に「本件ショップ協定」とあるのを「控訴人補助参加人との間の前記ユニオンショップ協定(以下「本件ショップ協定」という。)」と、同九枚目表三行目に「原告ら」とあるのを「控訴人」と、同裏三行目に「付し、これが確定したことは認める。」とあるのを「付したことは認めるが、その余は争う。」と、同四行目から五行目にかけて「ユニオンショップ協定」とあるのを「本件ショップ協定」とそれぞれ改める。

2 同一〇枚目表六行目に「一項」とあるのを「第一項」と、同九行目から一〇行目にかけて「ユニオンショップ協定(以下「本件ショップ協定」という。)」とあるのを「本件ショップ協定」と、同裏七行目に「もって」とあるのを「前提として」とそれぞれ改め、同一〇行目に「時点で」とある次に「その効力が」を加え、同一一枚目裏二行目に「対する」とあるのを削除し、同九行目に「対する」とあるのを「対し」と改める。

3 同一四枚目表二行目及び三行目を「いたものである。この造船不況は、一企業、一経営者の責任に帰すべき問題でないことは控訴人補助参加人も理解しえたことであり、恒久化する余剰人員の整理が不可避である以上、全組合員の一致団結を確保しつつ控訴人と交渉して人員整理に関し少しでも有利な条件を交渉上引出すことこそ控訴人補助参加人に課せられた義務であった。このような中での労使交渉の結果、組合員の利益を最大限に守るぎりぎりの線で労使間で合意をみようとしたとき、すなわち団結の維持が最も必要な時期に被控訴人らは突然脱退行動に走ったのであり、本件脱退は、控訴人補助参加人にとって特に不利益な時期にされたものである。」と、同枚目裏一〇行目の「統一的」から同末行の「原則」までを「統一的労働組合が強固な団結体として組合員有資格者を独占し、これにより労使対等の立場で労働諸条件を決定する、という原則」とそれぞれ改める。

二 控訴人の主張

1  本件脱退の効力について

(一)  労働組合(以下「組合」という。)が労働者の自由意思に基づく団体であるからといって、組合からの脱退もまた、これを理由として何らの不利益を受けないという意味において常に自由であるというのは、論理飛躍である。何故ならば、労働者がその自由意思に基づいて組合に加入したとしても、いったん団結体たる組合の構成員となった以上、組合員の自由が団結の目的ないし機能によって制約されることは、労働者の団結権の本質に照らし、当然の理だからである。

すなわち、労働者個人の団結権は、個々の労働者が組合を結成し、又はこれに加入し、組合の運営に参加する権利であるのに対し、組合の団結権とは、多数決原理に従い、組合の組織と運営の態様・方法を決定し、団結の維持・存続、組合員の経済的地位の向上等を図ることを目的とするものであって、労働者個人の団結権を止揚し、後者を包容する高次元の権利であって、これに優先するものである。そして、組合の団結権は、組織強制を本質的要素とし、団結への強制を志向するものであり、ユニオン・ショップ協定は、この団結強制を実現し、組織強制をより有効にする機能を果たすものといえる。したがって、組合、特にユニオン・ショップ協定を締結している組合からの脱退には、合理的ないし正当な理由(以下「正当な理由」という。)があることを要するものであり、もしこれを欠けば、組合の団結権を侵害する違法なものとして、当該脱退は無効というべきであり、また、少なくとも組合の団結・利益を害するような態様・方法・時期の脱退は、権利の濫用として許されない。

(二)  被控訴人らは、いかなる理由で控訴人補助参加人を脱退し、分会を結成し、又はこれに加入したかの理由につき何ら釈明しなかったものであるから、自らの地位を守るための権利を放棄したものというべく、控訴人補助参加人からこのことを聞いた控訴人としては、被控訴人らの本件脱退に何ら正当な理由がないものとして処理するほかなく、控訴人がユニオン・ショップ協定の適用に関する原則に従い、被控訴人らを解雇したのは正当である。

(三)  別組合を結成し、もしくはこれに加入することがユニオン・ショップ協定締結組合からの脱退の正当な理由にあたるかについては、組織強制のみならず団結強制によって守られている組合の団結権と、それに包容されている組合員の団結への権利とが衝突する場合であり、単純な組合結成もしくは選択の自由によって解決しうる問題ではない。

この場合、個人の積極的団結権の行使は、組合の積極的団結権を害することになるから、その方法が相当でなければならないとともに、個人の積極的団結権を組合のそれに優越させるだけの正当性がなければならない。この観点から本件をみるに、本件脱退が正当な理由があるものとして是認されるためには、控訴人補助参加人の内部において、多数決原理が形式的又は実質的に妥当しなくなり、被控訴人らの意見が全く無視され、そのため控訴人補助参加人のなかにとどまっていては、被控訴人らの権利が擁護されないという客観的事情がなければならない。そして、そのためには、被控訴人らが控訴人補助参加人内部で組合員としての権利を行使し、義務を尽くしたにもかかわらず、自己の意思もしくは利害が全く抑圧されて、自己の労働関係上の生活利益を確保することが著しく困難であるか、又は他の組合に加入することによってはじめて自己及び同種の労働者に共通する利益を確保できるなど、客観的にみてその脱退・組合加入がやむをえないと認められる場合でなければならない。しかるに、本件においては何らそのような事情は存在しなかった。仮に被控訴人らが控訴人の合理化案に対する控訴人補助参加人執行部の対応では組合員全体の利益を守りえないと考えたならば、具体的な対案を提示するほか、自己の主張の合理性を組合組織における意思表明の場で組合員に訴えて、同調を求めるべきであったし、特に脱退の理由を求められたならば率直にその趣旨を訴えるべきであった。それにもかかわらず、被控訴人らは、そのような行動をとらず、控訴人補助参加人から離脱していったのである。

以上によれば、被控訴人らの本件脱退は、団結への権利の行使として保護するに値しないものであり、正当な理由を具備するものとはいえない。

(四)  控訴人としては、被控訴人らが控訴人補助参加人から脱退して非組合員となり、分会を結成し、又はこれに加入したとしても、いわゆる緊急人員対策を実施せざるをえず、この場合、平等取扱の原則、不当労働行為禁止の法理からして、控訴人補助参加人の組合員と被控訴人らを同一の基準に従って取り扱わざるをえないから、被控訴人らが自らの手で独自の権益を確保することは現実にはありえないところであり、被控訴人らにおいて分会結成等の挙に出なければその生活利益を確保しえないという脱退の理由は、根拠が薄弱であり、正当な理由とはなりえない。

2  本件除名処分について

ユニオン・ショップ協定を締結している組合であっても、その団結を維持するためには、右協定の適用による解雇以前に、組合からの離脱を防ぐことが肝要であり、組合には、組合から離脱しようとする者に対し説得をする権利があるか、少なくとも説得の機会が与えられるべきであるということができる。控訴人補助参加人の組合規約で脱退を組合の承認にかからせているのは、この機会を確保し、かつ組合の団結を無視し、もしくは阻害するような脱退を防止することを目的とするものであり、公正かつ合理的なものである。

しかるに、被控訴人らが右規約に定められた承認を求めず、一片の脱退通告書を送付しただけで、控訴人補助参加人が被控訴人らを説得するため脱退の理由を聞こうとしたのに、全くこれに耳を貸そうとしなかったことは、形式的に組合規約に違反するにとどまらず、実質的に控訴人補助参加人の団結を無視し、否定した行動であるといわざるをえず、正に除名に値する行動である。したがって、控訴人補助参加人が被控訴人らの本件脱退を承認せず、本件除名処分をしたのは当然の措置として有効である。

三 控訴人補助参加人の主張

(本件脱退の効力について)

1  被控訴人らは、労働者の自由な意思に基づく結合として控訴人補助参加人の組合員になったのではなく、いずれも入社時に控訴人補助参加人と控訴人との間でユニオン・ショップ協定が締結されていたために、選択の自由を有することなく控訴人補助参加人の構成員となったのである。そもそもが自由意思による結合であることを前提として、脱退も自由であるとするのは、本件にはあてはまらないというべきである。

2  組合の使命は団結力を背景に使用者と対等な立場で交渉することにあるから、自由意思による脱退のような団結力を弱める行為を無制約に認めるわけにはいかないことは当然である。そこで、控訴人補助参加人においても、規約第一二条で、脱退については、「中央執行委員会の承認を得なければならない」ことを定めている。同条は、同第一一条が定める形式的な資格喪失の場合にすら脱退を前記承認にかからしめていることに照らしても、これよりもさらに団結力を弱めるおそれのある自由意思による脱退についてこそ、当該組合員の判断のみに委ねることのないように組合がその脱退を承認するか否かを判断すべきものとしているのである。前記第一二条に自由意思に基づく脱退の場合が明記されていないのは、そもそもユニオン・ショップ協定締結組合においては、自由意思による脱退ということは本来的にありえないと考えられるからにすぎない。

しかるに、被控訴人らは、右規定による承認を得ていない。

3  組合は、前記規定による承認・不承認の前提条件として、少なくとも脱退の理由を聞き、脱退の意思の撤回を求めて説得する機会を権利として有するものであり、脱退希望者の側には、理由を明示して説得活動に応ずる義務があるというべきである。

しかるに、本件において、控訴人補助参加人が被控訴人らに対し脱退理由の明示を求め、その説得活動を開始したのに対し、被控訴人らは誰一人として前記義務を履行しなかった。

それのみならず、被控訴人らは、事前に組合における機関決定をなす手続上、自己の意見を表明する機会に恵まれながら、その手続上何一つ自己の意見を表明していない。

このような被控訴人らのした言わば問答無用の本件脱退は、少なくともユニオン・ショップ協定締結組合においては、その態様において正当性を有せず、効力を認められないというべきである。

したがって、この観点からも、控訴人補助参加人が被控訴人らを除名処分にして、控訴人に本件ショップ協定の発効を促したことは是認されるべきである。

四 被控訴人らの主張

(本件脱退の効力について)

1  ユニオン・ショップ協定がその締結組合からの脱退を制約するものであることは、その効力範囲が無制限であり他の権利すべてに優先することを意味しない。右協定の効力が及ぶのは組合に加入していない者に対してのみであり、右協定締結組合を脱退し他組合に加入しあるいは別組合を結成した者に右効力が及ばないことは、確立された判例・通説の立場であり、右協定の一般的有効性から多数派組合による少数派組合に対する絶対的な優位を認めることは現行法上容認されていないのである。組合複数主義を認める我が国の法制度のもとでは、右協定の効力は、非組合員(積極的団結権を行使しない者)に組合加入を強制する限度で肯認され、個々の労働者の有する積極的団結権を侵害することは到底許されない。

2  もともと組合からの脱退は原則として自由なのであるから控訴人補助参加人の規約第一二条をあえてその文言に反し自由意思による脱退についてまで拡大解釈して適用する必要はない。

また、仮に脱退に手続が必要であるとしても、脱退自由の原則に反するような手続的要件を設けることは許されないところ、本件において控訴人補助参加人が脱退手続と主張するものは、「別に定める脱退届」の提出、支部執行委員会及び中央執行委員会の承認である。このうち右各承認にかからしめることが無効であることは、確立された判例である。また、控訴人補助参加人においては、自由意思に基づく脱退につき上記脱退届なるものは存在しなかった。脱退理由を書面で提出すべきであるとの控訴人補助参加人の主張を前提としても、被控訴人らはこれをビラ等によって明らかにし、控訴人補助参加人もこれを了知していたのであり、いずれにしても、本件においてとられた脱退手続で十分というべきである。

3  ユニオン・ショップ協定締結組合からの脱退について特別の理由は何ら必要ではない。

憲法第二八条は積極的団結権を保障したものであり、特定の組合への加入強制を認めたものでも特定の組合を保護するものでもなく、組合の選択が自由である以上、本件脱退は何ら団結権を侵害するものではない。

4  控訴人補助参加人は、控訴人から示された造船合理化計画に対し積極的に協力するという基本路線を定立し、正に控訴人と一体となって合理化の推進を図ってきたが、他方、別の単産組織である全造船は、全く異なった方針、すなわち「人員削減反対、雇用の確保」の方針の下に、労働者の雇用と生活を擁護するための闘いを展開していた。被控訴人らは、かかる状況の下で、もはや控訴人補助参加人のなかでその方針に従って運動していくのでは組合本来の目的を実現することはできないと考え、自ら支持する全造船に加入し、会社の合理化計画と闘っていくことを唯一の目的として控訴人補助参加人から脱退したのであり、本件脱退は、正当な団結権の行使として憲法上保障されるべきものである。

第三証拠関係

原審及び当審記録中の証拠に関する目録の記載を引用する。

理由

一  当裁判所も、被控訴人らの本訴請求はいずれも正当としてこれを認容すべきものと判断する。その理由は、次のとおり訂正・附加するほかは、原判決の理由説示のうち被控訴人らの請求に関する部分と同一であるから、これをここに引用する。

1  原判決一五枚目裏一行目冒頭から同三行目末尾までを次のとおり改める。

「一 請求原因1、2及び抗弁1の各事実、抗弁2のうち、労働協約第五条、第六条の規定の存在すること、同3のうち、控訴人補助参加人が昭和五四年三月一〇日被控訴人らを除名処分に付したこと及び同4のうち、控訴人が同月二七日被控訴人らに対し本件ショップ協定に基づいて本件解雇の意思表示をしたこと、以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。」

2  同一六枚目表六行目に「一、二、」とある次に「第二六号証、第四一号証、第四四号証、」を、同行に「第七四号証」とある次に「(第六号証は一、二)」を、同七行目に「第七八号証、」とある次に「第八二、第八三号証、」を、同八行目に「乙第八号証の二、」とある前に「甲第五九号証、」を、同枚目裏一行目に「第四二号証」とある次に「、当審証人景山一男、同末吉捷一の各証言」をそれぞれ加え、、同八行目に「鉄鋼部分」とあるのを「鉄鋼部門」と改める。

3  同二〇枚目表末行冒頭に「同月一四日」を、同枚目裏五行目に「反対していたが」とある次に「(もっとも、職場討議の場においては、必ずしも積極的に意見を表明していたわけではない。)」をそれぞれ加える。

4  同二三枚目表九行目に「同月二二日」とあるのを「同月二三日」と改め、同二四枚目裏三行目に「制裁委員会は」とある次に「同年三月六日」を、同二五枚目表一行目に「そして」とある次に「、右制裁規定による期限である」をそれぞれ加え、同二六枚目表四行目から五行目にかけて「中央委員会」とあるのを「中央執行委員会」と改める。

5  同二六枚目表一〇行目冒頭から同二七枚目裏九行目末尾までを次のとおり改める。

「しかしながら、憲法第二八条による団結権の保障の精神に照らすと、労働者がどのような労働組合を選択するかについてはあくまでも個々の労働者の自由に委ねられるべきものであるから、ある労働者がその所属する特定の組合を批判し、新たに組合を結成し、又は既存の他の組合に加入する目的をもってその所属組合から脱退することも組合選択の自由の一つとして、当該労働者の自由になしうるところといわねばならず、このことは、当該所属組合がユニオン・ショップ協定を締結している場合でも異なるところはないと解すべきでる。

もっとも、当該組合の規約に右に認定したような脱退の手続規定がある以上、これが右の労働者の自由な意思による脱退の手続に類推適用されるものと解するのが相当であるが、前述の観点に照らして労働者の組合からの脱退の自由は最大限に保障されるべきであるから、脱退に組合の機関の承認を要するものとする組合規約は右の自由を不当に制限するものとして無効であり、組合員は、機関の承認がなくとも任意に有効な脱退をすることができるものと解すべきである。また、脱退に関するその他の手続規定も、脱退の自由を不当に制限しない限度においてのみ有効であるにすぎず、右手続規定による手続をそのまま履践しなくとも、脱退者において実質的に右規定の趣旨にそう方法で脱退の意思表示を組合にすれば、これにより脱退が有効にされたとみるべきである。

これを本件についてみるに、被控訴人らは、前記規約第一二条所定の承認を得ることなく脱退をすることができる筋合いであり、また、前掲証拠によれば、右第一二条による脱退手続は、鶴見支部においては「脱退届」を、浅野支部においては、「備闘資金返還請求書」を提出することとされていることが認められるところ、先に認定したとおり、被控訴人日和田及び同持橋は昭和五四年二月二八日にそれぞれ内容証明郵便により脱退の意思表示をし、右の当該日中にこれらが各所属支部に到達したものであるから、右に説示した趣旨に照らし、被控訴人らは右各到達のときにそれぞれ有効に控訴人補助参加人から脱退したものというべきであり、右脱退には手続上も違法はない。」

6  同二七枚目裏一〇行目に「而して」とあるのを「控訴人及び同補助参加人は、自由な意思による脱退には正当な理由が必要である旨るる主張する。しかしながら、前記説示のとおり、脱退の自由は最大限に保障されるべきであるから、正当な理由の存在を脱退の積極的要件とすることはできない。そして、」と改める。

7  同二八枚目表末行の「脱退したものであるから、」から同枚目裏一〇行目末尾までを次のとおり改める。

「脱退したものであり、右脱退は、単純にその是非を論じえない組合のあり方あるいは方針そのものをめぐって生じたものであるから、前述の組合選択の自由の保障の趣旨に鑑み、それ自体として正当な理由がないとはにわかに断じえないというべきである。

また、前記2に認定した事実に照らすと、本件脱退が控訴人補助参加人の団結・利益を不当に侵害するような態様、方法によってされたものとは認められず、控訴人補助参加人にとって控訴人との対抗上特に不利益な時期にされたものとも認められない。たとえ被控訴人らの本件脱退により控訴人補助参加人の団結にひびが入ることがあったとしても、あるいは、先に2(三)に認定した右脱退後の経緯をみると、脱退の理由の釈明を求め、説得活動を試みようとする控訴人補助参加人に対する対応の仕方において被控訴人らにやや誠意を欠く面があったといえるとしても、これらのことから本来労働者としての基本的な権利ないし自由であるべき被控訴人らの本件脱退を控訴人補助参加人の団結権を侵害する違法なものないし権利の濫用にあたるものとして無効と解すべきいわれはない。

そのほか、控訴人、同補助参加人が本件脱退の効力について主張するところは、以上の説示に照らしすべて採用することができない。」

8  同二九枚目表六行目冒頭から同三〇枚目裏一〇行目末尾までを次のとおり改める。

「(三) 除名解雇の効力

右に述べたように、控訴人補助参加人がした被控訴人らに対する除名が効力を生じない以上、控訴人に本件ショップ協定に基づく解雇義務の生じないことは明らかである。したがって、他に被控訴人らに対する除名解雇の合理性を裏づける特段の事由の認められない本件においては、本件解雇を社会的に相当なものとして是認することはできず、結局、右協定に基づく本件除名処分を理由とする本件解雇は、解雇権の濫用として無効なものというべきである。

(四) 脱退解雇の効力

控訴人は、本件ショップ協定は控訴人補助参加人の組合員たる資格を失った者を解雇する趣旨であるから、被控訴人らのような脱退者にも右協定の効力が及ぶ旨主張するので、以下検討する。

控訴人主張の労働協約第五条、第六条の規定の存在することは前判示のとおりであり、右各規定及び(証拠略)によれば本件ショップ協定は、本件脱退のような自由な意思による脱退に関する規定を欠いていることが認められるが、本来ユニオン・ショップ協定は、労働者が組合員たる資格を失った場合等に、使用者をしてその労働者を解雇させることにより組合の団結、組織拡大を図ろうとする制度であるから、右趣旨に鑑みれば、本件ショップ協定は、控訴人補助参加人の組合員が自由な意思により脱退をした場合にも、これが控訴人補助参加人の団結・組織をおびやかすものとして、原則として控訴人に右脱退者を解雇する義務を課しているものと解するのが相当である。しかしながら、憲法第二八条が労働者の団結権を保障し、この保障が労働者の組合選択の自由の保障をも含んでいることは先に判示したとおりであるから、組合の規模、組合員数等を理由に複数の組合の団結権相互の間に優劣をつけることはできず、このことは一つの組合のみがユニオン・ショップ協定を締結している場合でも同様であると解すべきである。したがって、右協定を締結している一つの組合所属の組合員がその組合を自由な意思により脱退し、これと接着して他の組合に加入し、又は新たな組合を結成して既に団結権を行使している場合においては、右協定の効力は、右脱退者に及ばないものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、前認定のとおり、被控訴人日和田及び同持橋は本件脱退と日を同じくして全造船及び一審原告佐藤実らが結成した分会に加入したものであって、本件解雇の意思表示がされた当時、被控訴人らは、いずれも適法に団結権を行使していたものであるから、本件ショップ協定の効力は、被控訴人らには及ばないとみるべきである。

したがって、右協定に基づく被控訴人らの本件脱退を理由とする本件解雇も、解雇権の濫用として無効なものというべきである。」

9  同三一枚目表四行目及び六行目に各「申請人」とあるのをいずれも「被控訴人」と改める。

10  同枚目裏一行目に「第三項」とあるのを「第3項」と改める。

二  よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第九四条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 櫻井敏雄 裁判官 増井和男 裁判官 河本誠之)

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